2012年07月03日
カテゴリー:コラム
【コラム】阿賀野川流域・地域再生の軌跡~その3「住民参画手法の理想と現実」
◆これまでの歩み1:平成19年度
事務局のYです。FM事業を振り返る短期集中連載コラムその3をお届けします(前回の記事はこちら)。今回からはFM事業のこれまでの歩みを年度別に振り返って簡単に説明したいと思います。その第1回目は、平成19年度から★
ところで、FM事業は一見、順調(?)に進んできたように外から見えるものの、その実際の道程は紆余曲折の連続でした。したがって、現在、日本の全国各地で「地域再生」を求める気運が高まっていますが、ここに記された総合プロデューサー制などの推進体制を踏襲したとしても、それが順調に進むとは限りません。そこで、当コラムでは毎回、前半部分は年度概要をマジメに報告しつつ、後半部分では、表面的な事業経過だけを眺めても分からない地域再生の実情の部分などを、ほんのさわりだけですがまとめてみました。
◇平成19年度はFM事業が本格的に始動した年
平成18年度は流域資源の事前調査などに終始したため、平成19年度からのFM事業の本格的な始動に当たり、総合プロデューサー(NPO法人文化現場代表・小川弘幸氏)を擁立すると共に、流域市町、有識者、流域関係者などが参画する「FM事業実施検討会」を立ち上げました。
11月から計7回開催された実施検討会では、まず新潟水俣病の現状や「もやい直し」に対する共通認識を深めた上で、FM事業の方向性を段階を経て定めていくため、ワークショップを活用した意見集約の手法を用いて討議されました。成果としては、事業理念を策定できたこと、現状認識がある程度深まったことなどでしたが、ワークショップという手法上、アイデアを実践可能かつ効果的に深める機会が少なく、具体的な全体計画の策定や個別事業の企画は来年度以降に持ち越しとなりました。
私たちは新潟水俣病に学び教訓を伝承することで、負の遺産から新たな価値を創造していくことを目指します。阿賀野川流域の宝物を広く内外に発信しながら、公害により失われた人と人、人と自然、人と社会の絆をつむぎ直していきます。地域を愛する人が地域の未来をつくる「流域自治」の確立に向けて行動します。
≪3つの基本方針≫
一、 阿賀野川への愛を取り戻し、人と川が共に在る新たな時代をつくる
一、 新潟水俣病の記憶を風化させず、人類の教材とする
一、 絆あふれるまちづくりを通し、被害者の人間開放を進める
>>さらに詳しく:平成19年度FM事業の経緯・成果など〔PDF形式:860キロバイト〕
◇流域の人々からいかに協力していただくか
FM事業で最も大変だったのは、この新潟版「もやい直し」に、流域の人々や関係者の方々からどう協力していただくか…ということでした。最近の主流は、民主党政権下の内閣府が進めてきた「新しい公共」が提唱する住民参画の手法です。ちなみに、この「新しい公共」とは、地域が抱える課題を行政やNPOなど地域の多様な主体が参画した熟議を通じて解決する取組のことで、日本全国各地で実施されています(※新潟県でも)。
この「新しい公共」では、地域の多様な主体の参画手法のことを、「マルチステークホルダープロセス」と呼んでいます。具体的には、地域の課題に関係する主体全員が同じテーブルについて熟議を重ね合意形成を図ることで、課題解決に向けた全体最適に到達できるとしています(※下図参照)。こうした透明性の高い住民参画のあり方は、今後、最も理想的な手法と目されていくでしょう。
しかし、実際にFM事業を進める際は、こうした理想的な方法を最初から採用できる状況にはありませんでした。というのも、流域住民の多くが新潟水俣病問題に無関心か距離を置いていた上に、この問題に詳しい関係者の間ですら、実際に地域再生をどう進めたらよいか、なかなか良い考えが見出せていなかったからです。恐らく、現在、地域再生を必要としている各地でも、似たような状況があるのではないでしょうか?
そこで、FM事業では、様々な流域住民や団体からこの地域再生に協力していただける方法を、毎年度少しずつ見出していくことにします。その手法を端的に表現すれば、「まずは流域住民や団体の本音や実情を探る」「地域再生自体に共感してもらえるような共通の価値観づくり」「無理なく少しずつ得意分野で参画してもらうこと」でした。次回以降のコラムでは、そのあたりの事情も紹介していきたいと思います。
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