2014年01月02日

【読書感想】新潟水俣病をめぐる制度・表象・地域(著者・関礼子/㈱東信堂)

新潟水俣病をめぐる制度・表象・地域

明けましておめでとうございます。本年も「阿賀野川え〜とこだ!ブログ」をよろしくお願いします。2014年から始める新たな試みの一つとして、新潟水俣病や地域再生などに関する書籍の感想記事を、時折ですがアップしていきたいと考えています。

最初はやはり新潟水俣病関係の書籍を取り上げたいと思います。ちなみに、有名な熊本水俣病と比較すると、新潟水俣病は繰り返された公害で被害規模も小さいため、どうしても研究蓄積は多くはありません。しかし、一般の方が新潟水俣病問題の複雑な経緯について簡潔に把握したい場合は、新潟県が発行する「新潟水俣病のあらまし」を参照すれば事足りるでしょう。

その上で、さらに踏み込んだ経緯や社会にとって有用な教訓を探りたい場合に、重要となる書籍の一つが本書です。新潟水俣病などの公害から得られる教訓は、環境問題と被害・救済問題に大別されますが、本書は主に後者の問題を論考しています。難しいのは「公害の教訓」というフレーズはしばしば多用されるものの、それが指し示す意味内容は必ずしも明白ではなく、とりわけ「被害・救済問題」から得られる教訓は単純明快ではないことです。

ちなみに、昭和40年代に頻発した公害を契機に、当時の政府が環境法規制を強化した結果、高度経済成長期に頻発したタイプの激甚公害は急減します。したがって、新潟水俣病問題が今なお抱える最大の問題は、複雑な経緯をたどり事態が紛糾し続けた被害者問題になる訳ですが、それらが急速な勢いで風化しかねない社会の無関心に、新潟水俣病問題に深く関わってきた本書の著者も危機感を覚えています。

本書の特徴の一つは、複雑に交錯する様々な情報が丁寧に整理され、問題の本質的な経緯を可視化してくれる点です。その上で本書を読むと、新潟水俣病問題の深刻化は行政の悪意や怠慢により引き起こされたというよりも、その時々の関係者による取組や制度化が、玉突き的に次の複雑な事態や表象(被害イメージ)を社会に引き起こし、それらが連綿と積み重なって問題全体が長期化していった過程だと把握できます。

こうした意図せざる紆余曲折を分析する一方で、著者は被害顕在地域を詳細に調査し、その当時の人々の暮らしや生業、地域社会のあり方を生き生きと描き出すことで、それらが住民の健康被害や地域内の差別に深く関係している構造を明らかにしていきます。この丁寧な記述によって、新潟水俣病の被害と地域の日常性が実は分かちがたく結びついていた(忘れがちな)事実を、説得力豊かに私たちに再認識させてくれます。

結局、問題があまりにも長期化したため、90年代に入って第2次訴訟がやむを得ず政治解決を図り和解に至ると、後に残された被害者たちが暮らす地域では住民同士の関係性がぎくしゃくし、あれだけ騒がれた新潟水俣病問題も急速に風化していきます。こうした事態に危機感を抱く著者は、被害者の日常生活に根差した地域づくりや地域の豊かな文脈に寄り添った教訓化を目指すべきだと本書で提案しています。

安田町の未認定患者の「水俣病らしくない運動」は、水俣病を地域の日常のなかから捉えなおそうという視点を持っている。地域の基層文化ともいえる阿賀野川の風土のなかで発生した、ひとつの出来事として水俣病を捉えようとする試みは、熊本県水俣市における「もやい直し」と同様に、地域のなかの対立や葛藤を超えて関係性を修復しようという試みである。(本書P.318より引用)

こうした地域の豊かな文脈に着目する観点や、すでに阿賀野川流域で実践されてきた試みなどが、現在展開されている流域再生の取組にも様々な形で受け継がれており、本書の提案は非常に重要であったと言えます。ただし、現在の地域再生は時代状況の悪化も受けて様々な課題に直面しており、今後は公害発生地における地域再生であっても、それをより持続可能に発展させていく実効的な知恵や具体的な成果が求められています。

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