これまでの歩み

このページでは、FM事業のこれまでの歩みについて、年度別にまとめてあります。
ただし、一言申し添えると、一見、すべて順調に進んできたように読めるものの、実際には紆余曲折の連続でした。したがって、現在、日本の全国各地で「地域再生」を求める気運が高まっていますが、ここに記された総合プロデューサー制などの推進体制を踏襲したとしても、それが順調に進むとは限りません。そこで、形として残る推進体制や成果品だけを眺めても分からない地域再生の実情の部分などを、ほんのさわりだけですが各年度ごとにエッセイ風・コラム風にまとめてみましたので、よろしければ併せてご覧ください。

平成19年度

◆FM事業が本格的に始動した年

実施検討会(第1回)の様子

平成18年度は流域資源の事前調査などに終始したため、平成19年度からのFM事業の本格的な始動に当たり、総合プロデューサー(NPO法人文化現場代表・小川弘幸氏)を擁立すると共に、流域市町、有識者、流域関係者などが参画する「FM事業実施検討会」を立ち上げました。

◇FM事業の方向性を検討

実施検討会は11月から、計7回開催されました。まず新潟水俣病の現状や「もやい直し」に対する共通認識を深めた上で、FM事業の方向性を段階を経て定めていくため、ワークショップを活用した意見集約の手法を用いて討議されました。成果としては、事業理念を策定できたこと、現状認識がある程度深まったことなどでしたが、ワークショップという手法上、アイデアを実践可能かつ効果的に深める機会が少なく、具体的な全体計画の策定や個別事業の企画は来年度以降に持ち越しとなりました。

★阿賀野川え~とこだ憲章(事業理念)

私たちは新潟水俣病に学び教訓を伝承することで、負の遺産から新たな価値を創造していくことを目指します。阿賀野川流域の宝物を広く内外に発信しながら、公害により失われた人と人、人と自然、人と社会の絆をつむぎ直していきま地域を愛する人が地域の未来をつくる「流域自治」の確立に向けて行動します。
≪3つの基本方針≫
一、 阿賀野川への愛を取り戻し、人と川が共に在る新たな時代をつくる
一、 新潟水俣病の記憶を風化させず、人類の教材とする
一、 絆あふれるまちづくりを通し、被害者の人間開放を進める

>>さらに詳しく:平成19年度FM事業の経緯・成果など〔PDF形式:860キロバイト〕

平成20年度

◆個別事業が企画・試行された年

推進委員会(第1回)の様子

FM事業を現地で実際に推進していく年度となることから、「実施検討会」を「推進委員会」へと名称変更したほか、個別事業を具体的に企画していくための体制も整えました。そして、度重なる検討を経て、上流地域でいくつかの事業を試行しました。

◇個別事業を企画・具体化するための体制づくり

平成19年度に検討した事業全体の理念や計画を基に、様々なアイデアを流域の現場で具体的に推進させていくため、平成20年10月、「阿賀野川流域地域フィールドミュージアム事業推進委員会」を開催し、多種多様な個別企画が提案されました。
そこで、数多く提案された個別企画を「イベント」「環境学習」「情報発信」の3分野に分類して、各分野ごとに「プロジェクトチーム」(PT)を結成しました。以降、各PTにおいては、「もやい直し」の効果や実現可能性などの観点から、様々な個別事業を具体的にどう展開していくか、何度も会合を重ねつつ企画の検討や絞込みが進められ、いくつかの個別事業が実際に上流域で試行されました。

◆上流域で「草倉銅山」に着目した理由

「新潟水俣病問題に端を発した地域再生の事業なのに、なぜ“草倉銅山”を題材として取り扱うのか」
ちょうど平成20年から21年頃にかけて、皆さんから不思議がられ、よく尋ねられた質問です。この頃はそれくらい草倉銅山を扱う個別事業が多かったのですが、それには次のような理由がありました。

草倉銅山本局の川港と角神製錬所(明治後期、提供:柏崎図書館・小竹コレクション)

◇なぜ、上流域から「もやい直し」を始めたのか

水俣湾で大規模な公害が発生した熊本県とは異なり、新潟水俣病の舞台は阿賀野川であり、発生地域は南北に細長いことから、被害状況や新潟水俣病の捉え方などは各地域でかなり異なっています。特に、他の地域と比べて顕在的な被害者数が少ない上流域では、原因企業の昭和電工㈱鹿瀬工場が立地していた関係上、新潟水俣病のことを話題に出しにくい雰囲気が根強く、過去に様々な取組が行われることもほとんどありませんでした。
そこで、FM事業では、これまで手付かずだった上流域から、あえて様々な事業に着手することにしました。なぜなら、最も困難だと思われる地域で「もやい直し」を展開できれば、他の地域での進展にも希望が持てると考えたからです。ただし、新潟水俣病を遠ざける意識が強い地域で、ほとんどの人がFM事業をご存知ない中、いきなり真正面から「もやい直し」に取り組んでみても、かえって警戒心を抱かれ、心を頑なにしてしまう恐れが大いにあります。

草倉銅山本山の写真(撮影:山口冬人氏)、左から、草倉銅山神社跡、建造物の礎石跡、坑道(側道)跡

◇草倉銅山は光と影を併せ持つ、魅力あふれる地域資源だった

そこで一見回り道ですが、まずは阿賀町鹿瀬の地域資源である「草倉銅山」を活用した事業を試行してみるというステップを踏むことにしました。そして、調べれば調べるほど判明したのですが、「草倉銅山」とは、地元の郷土史家などの間で根強い人気を誇る一方、実は日本の公害史にも隠れた因縁があるなど、「光と影」の両側面を併せ持った魅力溢れる地域資源だった訳です。
このように、FM事業では、地元の人々がある程度共感しながらこの事業に参加・協力していただけるあり方を重視して、いきなり新潟水俣病から真正面に取り組むより、まずはこの地域資源に着目して様々な事業を展開したという経緯があります。こうした、いわば「ステップアップ戦略」を採用することで、新潟水俣病が発生して以来初めて、FM事業で上流域における地域再生を展開することができました。

左から、草倉談義、紙芝居「草倉銅山物語」、地域再発見講座(第1回)

★平成20年度事業成果品
  • 草倉談義(※草倉銅山の活用検討のための現地調査)
  • 紙芝居「草倉銅山物語」制作
  • 地域再発見講座「阿賀野川ものがたり」(第1回)開催
  • 阿賀野川え~とこだより創刊準備号発行
  • 阿賀野川え~とこだ!ブログ開設
  • 資料整備への着手:草倉銅山関係資料、小竹コレクション

>>さらに詳しく:平成20年度FM事業の推進体制・経緯・成果など〔PDF形式:734キロバイト〕

平成21年度

◆FM事業の枠組みが確立した年

推進委員会(第2回)の様子

個別事業の企画検討から運営段階へ移行する年度となることから、それに合わせ推進体制も編成し直しました。さらに、前年度に試行した個別事業に加え、独創的な個別事業も新規に加わり、FM事業の現在の枠組みが完成した記念すべき年になりました。

◇個別事業を支援するための体制に再編成

複数の個別事業を現場で運営していく新たな段階に備えるため、個別事業を企画検討したプロジェクトチームを発展的に解体して、新たにワーキングチーム(WT)を個別事業ごとに編成し、各WTが担当事業の業務を支援していく体制となりました。そして、WT編成後の5月26日に「第2回推進委員会」が開催され、平成21年度における「環境学習」「イベント」「情報発信」の3分野についての方向性が確認されました。

◆流域の人々との距離を縮めた「ロバダン!」と「資料整備」

この年にほぼ完成した現在のFM事業の枠組みは、下図のとおりとなります。その成立の鍵を握っていた個別事業が、現在、多方面から評価いただいている「ロバダン!(炉端談義)」と「資料整備」でした。この2つの独創的な事業を通じて、地元の方々の本音を伺うだけでなく、交流も深まることで貴重な資料をお貸しいただき、流域内外の人々の心を打つ作品の数々を制作していくことができました。

◇FM事業では、なぜ、この2つの事業が必要とされたのか

FM事業の目的である阿賀野川流域の「もやい直し」は、昭和40年に新潟水俣病の発生が確認されて以来、何度かその必要性が訴えられてきたものの、残念ながらFM事業が開始されるまで流域ではなかなか進展しませんでした。これまで試みられてきた新潟水俣病に関する啓発や取組に対して、流域に住む多くの人々は何らかの理由から一定の距離を置いてきたのが実情ではないでしょうか。
それは、正しい理解という関係者からのスローガンや「被害と加害」という一面的な視点からの情報発信が強すぎて、本来多面的であるはずの新潟水俣病に対する見方や感じ方、あるいはお互いの言い分などを話し合う機会が、これまで流域では皆無に近かったことと無関係ではないと、FM事業では考えています。

◇“FM事業の代名詞”になった「ロバダン!」と「資料整備」

そうした実情を踏まえて、FM事業では「ロバダン!」(炉端談義)という取組をスタートさせ、流域の様々な立場や団体の人々から、本音の意見や訴えを聞き出す少人数の寄り合いを、流域各地で開催していくことにしました。その結果、これまで埋もれてきた様々な見方や感じ方が流域には数多くあることが確認できました。当初、「新潟水俣病の話題は語らない」と念押しされた方々が、話が弾むにつれ、むしろ積極的に語ってくれたこともしばしばありました。
一方、「資料整備」では、「ロバダン!」などを通じて入手できた流域関連の膨大な資料を収集・保存・整理する作業が進められた結果、「光と影の歴史」を描写したパネル作品などを制作することができました。その作品をお披露目するパネル展は、上流域ではタブーだった新潟水俣病のことを作品内で言及しているにも関わらず、阿賀町内の6旅館等を巡回し観覧者から大変な共感を呼ぶなど、一定の成果を収めることができました。
このように、「ロバダン!」と「資料整備」が功を奏したことで、イベントや情報発信の分野が進展したのは勿論、流域の人々とFM事業との距離が以前より縮まったことが最大の成果と言えます。この2つの事業は、これまでFM事業に欠かせない「縁の下の力持ち」的存在でしたが、今では多方面から寄せられる注目や高い評価などから、「FM事業の代名詞」と言っても良い取組へと育ちました。

★平成21年度事業成果品
  • 環境学習理念原案の策定
  • 草倉銅山ツアーの実施
  • パネル巡回展「草倉銅山の光と影」開催
  • 紙芝居「阿賀野川物語」制作
  • 阿賀野川え~とこだより創刊号・第2号発行
  • 阿賀野川え~とこだ!ブログ運営
  • 草倉銅山関連・鹿瀬工場タイムスの資料整備を実施
  • ロバダン!(炉端談義)17回実施
  • 地域再発見講座(第2回)「ハーモニカ長屋から眺めた風景」開催

>>さらに詳しく:平成21年度FM事業の推進体制・経緯・成果など〔PDF形式:940キロバイト〕

平成22年度

◆新たな段階へ移行するための準備の年

フォーラム(第1回)の様子

FM事業の枠組みが完成した昨年度をもって、FM事業の方向性を検討してきた「推進委員会」は役割を終えたと判断され解散しました。そして、「もやい直し」の継続を目指して、FM事業の受け皿となるための団体の検討や設立準備が進められました。

◇「もやい直し」を振り返る初のフォーラム開催

推進委員会は解散しましたが、個別事業ごとに編成されたワーキングチーム(WT)は存続し、引き続き総合プロデューサーの統轄のもと、各WTが担当事業ごとに業務支援していく体制となりました。年度末には、「資料整備」と「ロバダン!」を通して、これまでのFM事業を「もやい直し」の観点から振り返る初のフォーラムを、WTのメンバーを中心としたこれまでの関係者や、教育・行政の関係者と共に開催しました。

◆新たな段階に向けて ~「真の阿賀野川ブランド」と「環境学習」

FM事業も開始から数年が経過し、様々な個別事業が功を奏し始めた結果、「もやい直し」の成果が少しずつ表れ始めました。その好例が、企業城下町・鹿瀬と昭和電工㈱鹿瀬工場の歴史を光と影の視点から描き出したパネル巡回展を、上流域で開催できたことでした。

このパネル巡回展「鹿瀬・昭和電工・阿賀野川~光と影を織りなしてきた歴史~」は、展示作品が新潟水俣病を真正面から取り扱っているにも関わらず、平成21年度を上回る阿賀町内の10旅館が展示会場として名乗りを上げてくれました。さらに、パネル巡回展が終了した後も、流域の人々からパネル展示作品の貸出依頼が増えるなど、まだ緒に就いたばかりですが「もやい直し」が着実に進展している手ごたえが感じられました。

阿賀野市千唐仁(撮影:山口冬人氏)

◇流域の人々とFM事業との、本当の接点とは?

一方で、流域の人々からは、自分たちとFM事業の接点をなかなか見出せないとのご意見もいただいてました。確かに、地域の経済も長く低迷し、日々の暮らしも大変な流域の人々にとって、FM事業との接点はなかなか見出しづらいはずです。
そんな中、「ロバダン!」などを通じてお話を伺った多くの方々が共通して、「疲弊した流域の現状を憂えていた」のが印象的でした。さらに、流域に溢れる「阿賀の宝もん」の数々も、現状では新潟水俣病が思い出されるから、いまだに「阿賀野川ブランド」を冠して堂々と誇れずにいると打ち明けられる方も、少なからずいらっしゃいました。
こうした部分が恐らく、流域に生きる人々とFM事業とに共通する接点や価値観となり、それをどう広げていくかが今後の両者の課題になってくると言えます。そこで、FM事業では、こうした流域住民のご意見や思いを踏まえて、流域が新潟水俣病に向き合い乗り越えた末に確立される「真の阿賀野川ブランド」という考え方こそ、流域の各地域が今後目指していくべき方向性として提案し始めました。

◇「もやい直し」の継続のために環境学習を

ここまで事業を進めてきたFM事業ですが、最大の問題点は今後も事業が永続する保証がないことです。「もやい直し」を中長期的に継続していくためには、それを担う受け皿となる団体が存在し、かつ、経済的自立を模索していくことが必要不可欠となります。そこで、平成23年2月に「一般社団法人あがのがわ環境学舎」が立ち上げられました。今後、この団体がコーディネートして全国の方々から阿賀野川流域を訪問してもらい、ここでしか体験できない環境学習の機会を流域の人々と連携・協働しながら提供していくことで、FM事業を持続可能にする仕組みを構築する際の基盤にしていきたいと考えています。

阿賀野市千唐仁にある阿賀のお地蔵さんを、学生たちに案内する安田の大工・旗野秀人氏(左は虫地蔵、右が水俣地蔵)

★平成22年度事業成果品
  • 環境学習理念プログラムづくり
  • 環境学習パンフレット、流域環境団体カタログ制作
  • 鹿瀬地域フィールドワークの実施
  • ネル巡回展「鹿瀬・昭和電工・阿賀野川」開催
  • 地域再発見講座(第3~6回)「阿賀野川の忘れられた光と影」開催
  • 紙芝居「新潟水俣病との出会い」制作
  • 映像作品「ハーモニカ長屋から眺めた風景」制作
  • 阿賀野川え~とこだより第3号・第4号発行
  • 阿賀野川え~とこだ!ブログ運営・ホームページ制作
  • 鹿瀬工場タイムスの資料整備を実施
  • ロバダン!(炉端談義)17回実施
  • 阿賀野川え~とこだフォーラム第1回開催

>>さらに詳しく:平成22年度FM事業の推進体制・経緯・成果など〔PDF形式:680キロバイト〕


 

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