ロバダン!(炉端談義)~大事なことは少人数で本音で話す

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「炉端談義」略して「ロバダン!」
「ロバダン!」とは「炉端談義」を縮めた愛称で、囲炉裏を囲めるぐらいの少人数で、本音を語り合う小さな寄り合いのこと。「阿賀野川え~とこだプロジェクト」などの流域再生プロジェクトでは、これまで阿賀野川流域各地で100回以上の「ロバダン!」を開催してきました。
この数多くの「ロバダン!」をこなす中で、流域住民の方々がこれまで何に不満を抱き、そして何を課題と感じているか知ることができ、そうした思いの数々を踏まえることで、阿賀野川流域の地域再生を着実に前進させることができました。

実は水俣市でも「もやい直し」の初期は、「寄ろ会みなまた」という「ロバダン!」と似た取組を全市域で展開していました。恐らくこれは偶然ではなく、深刻な課題を抱えた地域であるほど、地域の実情や本音を探る必要性が意識されるため、同じような手法を採用してしまうのだと考えられます。地域再生の必要性が日本各地で叫ばれる昨今、「ロバダン!」的手法の重要性はますます高まりつつあります。

「ロバダン!」(炉端談義)の流れ

ここでは、日ごろ実際に行っている「ロバダン!」の流れを紹介します。「ロバダン!」は双方合わせて大体10名前後で行われます。それ以上集まると公式の会議のような雰囲気になり緊張する人が出てきますし、特定の人だけに発言が偏りがちになるからです。「ロバダン!」を主催する側は、囲炉裏端を囲んで話すような寛いだ雰囲気が生まれるよう、流域の茶菓子なども用意して話がはずむよう心がけています。
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  • まず一通り自己紹介し終わった後、FM事業の紹介を手短に行います。その際に、事業全体をコンパクトにまとめた1枚の資料を配布すると便利で、それをご覧いただきながら主催者側が説明します。
  • 次にFM事業で制作した紙芝居などの作品を鑑賞してもらいます。これによって、分かりにくいFM事業を直感的に理解していただけるだけでなく、それまで固かった場の空気も和んでフリートークしやすい雰囲気が生まれます。
  • こうしたステップをへて、いよいよフリートークへと入ります。その際に新潟水俣病のことを特に話さなくてもかまわず、昔の思い出や現在の関心ごと、団体の活動内容、地域の実情や課題など、話題は何でもオーケー!

「ロバダン!」(炉端談義)3原則

そもそも「ロバダン!」の開催に当たって、主催者側が守る代表的な原則が3つあります。
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「ロバダン!」(炉端談義)3原則
  1. 新潟水俣病のもやい直しが目的とはっきり伝える。
  2. 相手の言い分にまずは耳を傾ける。否定しない。
  3. 共通の価値観を探る。共通の価値観を広げる。
  • 1番目は、「ロバダン!」の開催を持ちかける際に相手方に伝えるべき事柄です。特にFM事業の場合は、新潟水俣病の「もやい直し」という目的をはっきり伝えられず、相手方がそれを後から知った場合にお互いの信頼関係に問題が生じる恐れがあるため、この原則を徹底しています。
  • 2番目は、「ロバダン!」をしている最中の主催者側の姿勢です。こと新潟水俣病の話題に関しては、これまで言いたいことがあっても外部の人が自分たちの意見を聴いてくれる場がなかったと、地域住民の方々はよく訴えます。「ロバダン!」で吐露される相手方の意見や思いには事実と異なる誤解も多いのですが、それを論破したり論争するのではなく、まずは相手の本音を丁寧に聴くことからコミュニケーションは始まります。こうして信頼関係が築かれ交流が継続していくことで、当初の相手方の誤解が素直に解消される場合も少なくありません。その一方で、相手方の意見を無理やり変えても、相手方の心の中のわだかまりまでは消えません。この「心の中のわだかまり」を少しずつ解消することこそ「もやい直し」の本質だとFM事業では考えています。
  • 3番目も、2番目と同様に「ロバダン!」中の主催者側の姿勢です。流域再生や「もやい直し」の進展には、いかに多くの相手方と時間と空間を共有しながら協働や交流を継続できるかが鍵を握っています。しかし、その出発点である「ロバダン!」を通じて相手方との接点や共通の価値観を見出せないと、新しい協働や交流のステップに進むのは難しいと言えるでしょう。そのため、漫然と相手方の言い分を聴いているだけでは何も得られないので、「ロバダン!」中は相手方から様々な本音を引き出すべく、真剣に相手方の言い分を理解し質問をしてお互いの共通点を広げる努力が主催者側に求められます。

「ロバダン!」(炉端談義)開催実績

「ロバダン!」はFM事業において平成21年度から本格的にスタートし、現在では流域各地でのべ100回以上開催されています。平成23年度半ばから平成24年度にかけては「阿賀野川エコミュージアム」がスタートし、「もやい直し」を目的とするFM事業とは異なり「阿賀野川ブランド」を生み出す観点からのロバダンも数多く開催されました。

これまでの開催回数は、上流域32回、中流域43回、下流域39回…の合計114回です。

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「ロバダン!」(炉端談義)を通してわかった率直な本音

新潟水俣病の現状認識

「新潟水俣病の原因は農薬水銀であり、昭和電工はあまり関係ないと誤解していた」
「若い私たちは、水俣病自体も、地元で問題になっていることも、ほとんど知らない」

流域ではやはり、新潟水俣病の問題から距離を置く人が多く、特に若い世代は最近の裁判も含めて過去を知らず風化が進んでいます。一方、年配者はさすがにご存知の方が多いですが、農薬水銀が原因であると誤解している人も少なくありませんでした。
特徴的なのは、一般的に被害者は可哀そうだと口にする人も、自分の顔見知りには疑いの目を向ける場面が少なからずあったことです。関係が遠いほど公害の被害に理解を示せますが、関係が近ければ近いほど疑ってしまいがちな「人の本質」を垣間見た気がして、改めて流域には「ロバダン!」のような話し合いの場が必要だと感じました。

なぜ距離を置いたのか

「新潟水俣病発生当初、様々な人々が地域に入り込んできたため、距離を置くようになった」
「影の側面に偏った報道が多すぎる。せめて光の側面も併せて伝えてほしい」

公害問題と距離を置いたのは、人それぞれ理由があるのだと分かりました。象徴的なのが、当初「新潟水俣病の話題は語らない」と念押しされた方々が、話が弾むにつれ、むしろ積極的に語ってくれたこと。これまで影の側面に偏った見方が支配的で、今まで話す機会もなく、話を聞いてくれる人もいなかったためです。
そして、その中から提案された「光と影」という視点こそ、FM事業では地域再生に不可欠な姿勢と捉え、作品づくりや事業を進める際の方針としてきました。

誰もが流域の現状を憂える

「公害があったため、鹿瀬出身の若い世代には、故郷に自信が持てない者もいる」
「新潟水俣病のことはあまり語りたくないが、地域が疲弊した現状は何とかしたい」
「大河の恵みで育った農産物を、阿賀野川ブランドで売り出したい。しかし、現状では難しい」

地方経済が低迷し日々の暮らしも大変な流域の人々と、新潟水俣病の地域再生を目指すFM事業との接点は、正直言って見出しづらいです。そんな中、多くの方々が共通して「疲弊した流域の現状を憂えていた」のが印象的でした。さらに何人かは、新潟水俣病に向き合えないため、誇るべき地域の宝もんまで隠さざるを得ない落胆を吐露してくれました。
恐らくその部分が、流域に生きる人々とFM事業とに共通する接点となり、それをどう広げていくかが、今後の両者の課題となるでしょう。