阿賀野川え~とこだプロジェクトとは?

プロジェクトが始まってまだ間もない頃は、「阿賀野川え~とこだプロジェクト」って何だ?と、流域の方々によく訊かれました。最近は、トレードマークをご覧になっただけで「ああ、この取組ね」とすぐ認識していただいたり、「え~とこだよりを毎号読んでいるよ」などと声をかけてくださる方々が、本当に多くいらっしゃって嬉しい限りです!
このページでは、FM事業をご存じの方にもそうでない方にも、また、流域に暮らす方にもそうでない方にも、FM事業をもう少し深く知っていただくために、プロジェクトの目的や背景、これまでの沿革などを説明しています(※事業名に関する説明は下記参照)。

プロジェクトの目的:失われた絆の紡ぎ直し

阿賀野川の帆掛け舟(提供:柏崎図書館 小竹コレクション)

かつての阿賀野川、近代化の光と影

かつての阿賀野川は、帆掛け舟が多数往来し、鮭やマス、川魚が豊富に獲れ、子ども達が楽しげに遊ぶなど、人々の生活の場そのものでした。そして、明治以降、阿賀野川流域の豊富な水量や鉱物資源に惹かれた様々な企業が上流域に進出し、日本の近代化や高度経済成長を華々しく支えると共に、地域社会に繁栄をもたらしました。しかし、その裏で、昭和40年に新潟水俣病という大きな公害が表面化して、阿賀野川に暗い影を落としました。

失われた二つの絆、向き合えなかった流域地域

この新潟水俣病の発生を境として、日本全体が豊かになる過程と歩調を合わせるように、阿賀野川流域の「人と人の絆」や「人と自然の関係」が急速に失われ、地域社会の経済も低迷していき、長い停滞に苦しむ現在に至ります。その間、地域として新潟水俣病に正面から向き合うことは少なく、ましてや新潟水俣病を乗り越える動きもないまま、発生から長い年月が過ぎた今なお、新潟水俣病問題は続いています。

左から、草倉銅山選鉱場(明治期、提供:柏崎図書館)、昭和電工㈱鹿瀬工場(昭和20年代、出典:鹿瀬工場タイムス)、補償協定(昭和48年、提供:新潟日報社)

新潟水俣病と向き合い、乗り越える流域づくりを目指して

「阿賀野川え~とこだプロジェクト」は、こうした現状を積極的に変えていこうと、阿賀野川流域の各地域が今も続く新潟水俣病問題の歴史や教訓と向き合い、それを乗り越えるような「人と人の絆」や「人と自然の関係」を紡ぎ直していくため、流域の住民・行政・民間団体が手を取り合い、「新しい地域づくり」を目指して平成19年からスタートしました。

阿賀野川の情景(阿賀野市千唐仁、撮影:山口冬人氏)

プロジェクト開始の背景

知事の宣言が事業開始のきっかけ

新潟県知事

新潟県知事・泉田裕彦(平成18年10月21日・環境と人間のふれあい館5周年記念講演会)

平成17年6月、新潟水俣病40周年を契機に、新潟県知事が「ふるさとの環境づくり宣言」を公表しました。この宣言には、地域社会の再生・融和を図りながら、新潟水俣病の教訓を伝えていき、今後ふるさとの自然を二度と汚さない方針が謳われています。この宣言に基づき、「もやい直し」の中核事業として、平成19年からFM事業が官民協働でスタートしました。

「もやい直し」とは?
  • 昭和30年に水俣病が公式に確認されて以降、住民同士の絆が損なわれ、地域経済も疲弊した熊本県水俣市が、平成2年頃から取り組み始めた「地域の再生・融和」の試み。
  • 現在の水俣市は、日本有数の環境先進地として甦り、マイナスイメージをプラスに転換することに成功した。

これまでの歩み

「阿賀野川え~とこだプロジェクト」は、平成19年11月に第1回の実施検討会が開催されて本格的にスタートしました。ここでは、FM事業のこれまでの歩みを簡単に振り返ります(※さらに詳しくは、年度別のこれまでの歩みを参照)。

第1回実施検討会(平成19年11月)

◆平成19年度 FM事業が本格スタート
  • まずはFM事業の方向性を討議するため、総合プロデューサー(NPO法人文化現場代表・小川弘幸氏)を擁立して、流域市町・有識者・流域関係者などが参画する「FM事業実施検討会」が開催されました。
  • その結果、新潟水俣病への現状認識が深まるとともに、FM事業の方向性を明示した理念「阿賀野川え~とこだ!憲章」が策定されました。
  • さらに詳しくは、平成19年度の歩みを参照願います。

第1回地域再発見講座(平成21年3月)

◆平成20年度 様々な個別事業を企画・試行
  • この年度から、事業理念に基づいて流域の現場で具体的な事業を進めていくため、「イベント」「環境学習」「情報発信」などの分野から多種多様な個別事業が企画され、いくつかは実際に試行されました。
  • 地域再発見講座(第1回)が開催されたほか、「阿賀野川え~とこだより」創刊準備号や紙芝居「草倉銅山物語」も制作されました。
  • さらに詳しくは、平成20年度の歩みを参照願います。

ロバダン!(炉端談義)の様子

◆平成21年度 FM事業の枠組みが確立した年度
  • この年度で、現在のFM事業の枠組みがほぼ完成しました。「イベント」「環境学習」「情報発信」の各分野の個別事業のほか、「資料整備」「ロバダン!」といった独自の事業も、この年度から本格化しました。
  • 上流域を中心に事業が展開され、初のパネル巡回展「草倉銅山の光と影」が開催されたり、環境学習の理念づくりもスタートしました。
  • さらに詳しくは、平成21年度の歩みを参照願います。

パネル巡回展「鹿瀬・昭和電工・阿賀野川」(平成22年12月~)

◆平成22年度 新たな段階に移行する準備の年
  • 前年度にFM事業の枠組みが一通り完成したことから、次に「もやい直し」の継続を目指して、FM事業の受け皿となるための団体の検討や設立の準備が進められました。
  • パネル巡回展「鹿瀬・昭和電工・阿賀野川」が開催されるなど、引き続き上流域を中心に事業が展開されたほか、年度の後半からは、中流域の地場産業の関係者との「ロバダン!」も本格的にスタートしました。
  • さらに詳しくは、平成22年度の歩みを参照願います。

阿賀野川エコミュージアムを目指す流域再生フォーラム(平成24年3月)

◆平成23年度 もう1つの流域再生プロジェクトの誕生
  • 年度途中から、「阿賀野川え~とこだプロジェクト」のほかに「阿賀野川エコミュージアム」という新たな流域再生プロジェクトが加わり、新潟水俣病に向き合い乗り越える流域づくりが本格化しました。
  • 安田瓦や酪農、咲花温泉など地場産業の方々と連携しながら、パネル巡回展「阿賀野川と共に生きたあの頃」の開催など、中流域を中心に様々な事業が展開されました。
  • さらに詳しくは、平成23年度の歩みを参照願います。

>>さらに詳しく: 年度別のこれまでの歩み

FM事業の取組姿勢や方向性

これまで流域の地域再生を進める過程で見出してきた、FM事業の取組姿勢や方向性について、いくつか紹介します。

これまで「ロバダン!」などの交流を通じて、一見無関心に見える地元の方々が、なぜ新潟水俣病問題から距離を置くようになったのか、おぼろげながら様々な理由が分かってきました。特に、当初からよく言われたのが、「光と影」という視点が顧みられてこなかったという指摘です。

実際、少なからぬ地元の方々が「これまでは地元の影の部分ばかり強調され、私たちの言い分を話す機会もなく、光の側面を聞いてくれる人もいなかった」と訴えてきました。こうした地元の方々の声も踏まえて、FM事業では、この「光と影」こそ流域の地域再生に不可欠な視点と捉え、作品づくりや事業を進める際の重要な方針としてきました。

新潟水俣病問題についても同様で、これまでの報道や関係者の話では、影の側面に偏った伝え方や、「被害と加害」という固定化された見方が支配的だったのですが、実際は新潟水俣病に対する見方や感じ方は、地域や立場によって実に様々であることがわかりました。

そのため、新潟水俣病問題を伝えていく際には、ある一方的な感じ方や固定的な見方のみに立つのではなく、なるべく多面的な視点から捉え直してみることが重要だと考えています。少なくとも地元の方々にとって接点となる部分や共感できる部分がないと、大半の人々が問題自体から遠ざかっていき「もやい直し」は覚束なくなると危惧するからです。

経済が長く低迷し地域の疲弊が深刻になる中、流域に生きる人々は日々の暮らしに精一杯で、新潟水俣病の問題を我が事として受け止める余裕などないという、もっともな意見もあります。そうした流域の人々でも共感できる接点こそ、真の阿賀野川ブランドの確立だとFM事業では考えています。

それには、阿賀野川流域の各地域が(FM事業など通じて)新潟水俣病に向き合うだけでは足りず、実は(FM事業以外の事業などを通じて)それを乗り越えたと言えるような取組を今後築いていく必要があります。それは、新潟水俣病を経験したからこそ実践できる、地域独自の環境に配慮した取組や新しい地域づくりの動きかもしれません。いずれにせよ新潟水俣病を隠さなくとも、全国に向けて「阿賀野川ブランド」を自慢できる数多くの取組を流域で生み出していきます。

◆そして、「阿賀野川エコミュージアム」へ

この方向性で流域づくりを進めていき、最終的には、阿賀野川流域全体を「阿賀野川エコミュージアム」として全国に発信していきたいと考えています。そのことが、「真の阿賀野川ブランド」の確立だけでなく、新潟水俣病の被害者を含め地域住民の誰もが安心して暮らせる社会に、流域各地が少しずつ近づいていくことにもつながると信じています。

左から、昭和電工㈱鹿瀬工場跡、やすだ瓦ロードバス停、県営五十島渡船場跡(撮影:山口冬人氏)

「もやい直し」の継続に向けて

一般社団法人あがのがわ環境学舎の誕生

FM事業の最終目的は、「もやい直し」の動きを阿賀野川流域で今後も持続させていくことです。しかし、FM事業自体が永続できる保証はないので、今後も「もやい直し」を中長期的に継続していくためには、それを担う受け皿となる団体が存在し、かつ、経済的自立を模索することで、持続可能性を担保することが必要不可欠となります。

そこで、平成23年2月、これまでFM事業に参画してきた関係者を中心として、阿賀野川流域を舞台とした環境学習の運営団体「一般社団法人あがのがわ環境学舎」を立ち上げました。阿賀野川流域の中間コーディネート組織として、県内外から訪問客を受け入れることで経済的な自立を模索し、「もやい直し」を持続可能にする流域づくりを目指します。

>>さらに詳しく: 一般社団法人あがのがわ環境学舎コーポレートサイトへ


 

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